初めまして。 俺、ゴロー。 4歳、オス。 アメリカ生まれで、本当は英語かラテン語の格好いい長〜い名前があるのだけど「忘れた!」 ご主人がSMAPの稲垣吾郎が好きで、そんでもって他に何の理由も無く「ゴロー」にされてしまった。
何故かオレは今日本に住んでいる。 ご主人と一緒に日本に来てしまった。 以前は、「Sit !」だったのに、今では「お座り!」って言われてる。 最近オレも「逆バイリンガル」になってきた。 情けないことに日本語で命令されている。 「お座り!」ならまだいい。 公園で棒っきれを投げられて、以前なら「Fetch !」だったのに、今では「取って来い!」だもんなぁ。 わからねぇっつうの! 周りには電柱に向かって片足を上げてションベンする品のない犬がアッチにもコッチにもいる。 こないだ、オレも危うく足を上げかけてしまった。 危ねえ、危ねえ。
アメリカ生まれのオレの歴史なんて、公園では誰も聞いてはくれない。 だから、思いっきり独り言させてもらうから、聴きたかったら聴いてやってくれ。
<まえがき>
2001年6月、広大なトウモロコシ畑が広がるコロラド州の農家でオレは生まれた。 8匹兄弟の?番目。 そんなこと知るわけねえ。 兄弟は、黒白のブチ、茶黒のブチなど色々居た様だ。
どうせ、ろくな血統ではない。 それでもアメリカン・ケンネル協会の血統書が付いて来た。 いい加減なものだ。 血統書には長たらしい、もっともらしい立派な名前が書いてあった。
オレは兄弟の中では元気な遊び好きだったと思う。 他の兄弟がおとなしいと感じたから。 つまりオレはおとなしくはなかったんだろう。 ママはデブ!
だったと思う。 パパが小さく見えたから。 空気はおいしかった。 農家の「異」と言う「臭」がまるでご飯のふりかけの様に美味しかった。
<第1章>
コロラド そして出会い
コロラドって所は、まア言ってみりゃ「田舎」だ。 特にオレの生まれた Greeley(グリーリー)と言う町は「ド田舎」だ。 ともかく、小さかったオレの目に飛び込んでくるものと言えばトウモロコシ畑とその中で不気味に動く石油掘削のポンプだけ。
みんな知ってるか? 石油だかガスだか知らんが、畑の真ん中で採掘されているんだ。 お百姓さんは、石油が出ても「勝手に掘ってくれ。オレは畑やってっから。」てなもんで、のん気なもんだ。
田舎の証明ってやつだな。
やっぱりオレはコロラドが懐かしいのかなア。 つい、語ってしまいたくなる。 オレの話に戻ろう。 オレの部屋は農家のキッチン。 片隅に柵で囲まれて兄弟達といつも遊んでいた。
パパは子供には興味がなくて、いつも朝から晩までひとりで農場で走り回っていた。 やっと一ヶ月が過ぎた頃、日本人の家族が農場にやって来た。 子供用のペットを探しているんだと。
ペットに子供用も大人用もあるかっつうの!
男の子がオレたち兄弟に近づいてきて、ジッとオレたちを見ていた。一匹づつ抱いて顔を覗き込んでいる。 オレの番がきた。 そっと抱き上げられた。 農家のオヤジとはまったく違う優しい手だった。
初めて犬にさわるらしく、怖々と、でも柔らかく抱いてくれた。 これがオレの真のご主人「Keitaro」との出会いさ。
*写真は農家のキッチンで Keitaroに抱かれたオレ。
多分、1時間ほどだったかな? Keitaroは俺と兄弟たちを順番に抱いて、正面から見たり、裏返して見たり、そしてまた抱いて見たりして迷っている様子だった。 「こいつが一番元気がある。」と言ってまた俺を抱き上げた。 「よくわかってるじゃねぇか。 それが俺だ。」 ちょっとKeitaroのことが好きになった。 抱かれたい男No.1なんちゃって。。。
Keitaroのお母さんが近寄ってきた。 これまた犬を触るのが始めてのようだ。 チョコッと頭をなでて、すぐに手を引っ込めてしまった。
<母>「これが可愛いの?」
<俺>「オイ!犬ってものは可愛いものなのだ!」
<母>「しょうがない。約束だから私は我慢するわ。」
<俺>「オイ、それはどう言う意味だ!」
<Keitaro> 「それじゃ、こいつにする。 すぐに連れて帰ろう!」
<俺> 「オイ、ちょっと待て!俺は好かれているのか、嫌われているのか、
どっちなんやぁ?」
よく分からん家族だ。 そこに小太りのKeitaroの親父が現れた。 俺たち子犬よりも外で遊んでいる俺のパパの方に興味があったのか、外でずっとパパと遊んでいたようだ。
犬も人間もパパは外が好きなんだ! 初めて知った人間の真実!
<親父>「オイ、もう決まったか?」
<俺> 「ファイナルアンサー!」
<Keitaro>「こいつがいい!」
<俺> 「ファイナルアンサー!?」
<Keitaro> 「こいつに決めた!」
<俺> 「ファイナルアンサー??」
・・・・・・・「ザーンネーン!」 いや 「おめでとう。 1000万円!」
「後悔させまっせ〜ん。」
親父が俺の頭をポンポンと軽くたたいた。 こいつは犬慣れしたやつだ。 用心しないと
いかん。
農家の主人とこの親父が何やら契約書のようなものにサインしていた。 AKCへの申請書類にもサインをしていた。 お金も払っていた。 ○○十万円。
んなわけねぇか。 農場の主人が新聞に出した小さな広告を見て買いに来たらしい。 安いに決まっている。
(天の声:そのとおり!)
農場の主人が日本人の家族と握手している。 あれ!? おい! 家族が帰って行ってしまった。 皆ニコニコしながら車に乗って行ってしまった。
<俺>「エッ? エェェェェ-ッ! これがファイナルアンサー????」
<ママ> 「違うわよ。あんたはまだ生まれて5週間しか経っていないでしょ。 8週間は私のそばから離れられちゃいけないって法律できまっているの。 だから、あと3週間したらあの日本人たちが戻ってきてあなたを新しい家に連れて行ってくれるのよ。」
フーン。なんかわからんけど、期待どおりのファイナルアンサーだったようだ。
その後、兄弟たちもめでたく新しい家族が決まったようで、皆これから一緒に暮らす家族がどんな人達か、住むことになる家がどんな所かとか、期待と不安でワイワイ・ガヤガヤ。
<ママ> 「いろんな家族がお前たちを見に来たものね。 でも、ひとつだけ言えることは、これから行くところは、ここよりも綺麗で、ここよりも家族が親切で、ここよりも自由があるってことよ。」